『もう別れたくない、なんて我が儘は言わないよ。
オジサンはもっと大人にならなきゃね。
今まで、ありがとう。
離婚するかは分からない。
まあでも、もう1度ちゃんと話し合うことにするよ。
すみれちゃん。もう俺みたいなオッサンに引っかからないようにしな。』
奥寺さんはそう言って立ち上がる。
『きっと…もう2度と会えないと思う。
だから最後に言わせて。
俺は最初、遊びだった。
でもいつの間にか本気になっていた。
妻と夫婦仲が悪くなったからすみれちゃんと結婚する、とかそういうんじゃないんだ。
心から結婚したい、って思った。
まあ断られるのは承知の上だったけど。
とにかく、俺はキミに幸せになってほしい。
きっと俺といる間は幸せじゃなかったと思うから。
楽しい、幸せな思い出を俺なんかにくれて、ありがとう。
本当にキミを愛していたよ。』
奥寺さんの瞳に涙が光る。
そして振り返ることなく、奥寺さんはバーを後にした。


