「奥寺さん。私と別れてください。
もう、不倫なんてしない、って決めたんです。
だから…お願いです。別れてください。」
さっきから送られてくる心配そうな視線。
痛いくらいに突き刺さってくる。
一瞬だけ、泉さんのほうを見た。
そして笑ってみせる。
「心配しなくても大丈夫ですよ」ってメッセージを送ったつもり。
『何言ってるの?
俺、もうすぐ離婚するんだよ?
だから不倫じゃなくなるでしょ?
そしたらほら。
別れなくても大丈夫、ね?』
首を横に振る。
奥寺さんは分かってないんだ。
「そうじゃないんです。
もうこの際はっきり言わせてください。
私、もう奥寺さんのこと…愛していないんです」
よほど驚いたのか奥寺さんが初めて動揺を見せた。
グラスを持つ手が震えていた。
「いつからか分かりません。
でも、気がついたんです。
もう私はあなたを愛していないんだな、って。
あのときの私はどうかしてたんじゃないか、って。
初めて大人の男性に触れて、ただ憧れを抱いただけんじゃないかな、って。
だから、いくら何を言われても私は結婚する気はないんです。
奥寺さん。
別れてください。
そして、もう1度奥さんとやり直すことを考えてあげてください。
奥さんと息子さんが…可哀想です。」
もし、許されるのなら奥寺さんの奥さんに謝りたい。
申し訳ないことをした、って。
もう不倫なんてしない、って。
そう伝えたいんだ。


