『すみれちゃん!』
それから少し経つと奥寺さんがやって来た。
手が震える。
ビビりだな、私って。
手をギュッと握る。
「あの…場所、変えませんか?」
シュミレーション通りの言葉。
『え?一杯くらいここで飲ませてよ。
そんな焦んなくてもいいでしょ?』
奥寺さんはそう言って私の隣に座ると泉さんにお酒を注文する。
少し、心配そうな視線を私に送ってから泉さんは奥寺さんにお酒を渡した。
『すみれちゃんは俺といて、楽しかった?』
カランと氷が鳴る。
私は奥寺さんを見る。
でも奥寺さんの視線はグラスに注がれていた。
「辛かったです。
でも…楽しかったです」
この言葉にウソ偽りはなかった。
『そ。ならよかった。
それじゃあ…返事、聞かせてもらおうかな。
そのあと、ここを出よう』
「え……」
どうやら想像どおりに事は進まないみたいだ。
ここを出て返事を言おうと思ってたのに。


