『気づいたときには遅かった。
俺がもう少し早く、止めに入っていれば…お袋は犯罪者になんかならなくてすんだのに。
お袋はポケットから取り出したナイフで親父の隣にいる女を刺した。
てっきり、親父を刺すのかと思った。
でも…お袋は女のほうを刺したんだ。
みるみるうちに女の服は赤色に染まっていった。
周りの通行人は足を止め、哀れな目で女を見ていた。
親父は女に寄り添い、お袋を睨んでいた。
お袋は…ただ突っ立っているだけで。
そうするとすぐに、パトカーと救急車が来た。
俺は何もできず、ただそこに立っていた。』
泉さんの表情は苦しそうに歪んでいく。
想像するだけで寒気がした。
自分の母親が人を殺してしまうところを目撃してしまうなんて誰にも分からないだろう。
私にも、分からない。
でも、想像することはできた。
私だったらきっと、泣き叫ぶだろう。


