『それからどれくらい経ったか分からない。
ある日。
たまたまトイレに起きると鍵が開く音がしたんだ。
陰から覗くとお袋が家を出て行くところだった。
その格好は全身真っ黒でフードを被っていて。
ヤな予感がして俺はこっそり後を追った。
真夜中で辺りに人はいなくて。
進むにつれて胸騒ぎが大きくなっていった。』
私の心臓も胸騒ぎがする。
泉さんは顔を上げた。
『お袋はあるホテルの前で足を止めた。
俺は、電柱の後ろに隠れ様子を見ていた。
そうするとそのホテルから親父が出てきたんだ。
隣には若い女。
すぐに分かったよ。
アイツが親父の不倫相手なんだな、って。
お袋は親父たちが出てくるとそっちのほうに近づいていった。
ポケットに手を突っ込んだかと思うと光るものを取り出したんだ。』
予想通りの展開と言えば予想通りだった。
でも、そうでないことを願っていたんだ。


