『俺、気づいてなかった。
親父に他に女がいること。
でも、よく考えれば思い当たる節があったんだ。
例えばバカみたいに出張があったり、
香水の匂いがしたり…
多分、お袋は結構前から気づいてたんだと思う。
で、それから親父とお袋は時間を共有することはなくなった。
親父がリビングにいるとき、お袋は風呂に行ってたり…
うちの家族は完全に冷め切っていた。』
泉さんの拳が震え出す。
『全部、親父のせい。
親父が不倫なんてしなければお袋も悲しまずにすんだ。
アイツが…お袋だけを愛してくれれば誰も苦しまずにすんだ。
だから、俺は親父を恨んでた。
お袋が殺らなかったら、俺が…殺ってたかもしれない。』
泉さんは怒りが蘇ってきたのか、言葉をつまらせた。


