(同じ物を見て、同じように感じるのだろうか?サクラの見てた景色は本当にこの景色だったのか?)

答えは南を連れて行った死神が奪って行ってしまった。


「サクラァ、最後に見たこの世界は綺麗だったか?」


そう言ってナツは昔
「この匂い好き」
とサクラがくれたアナスイを餞に岡本川へ手向けた。


「向こうに行ってトルエンの匂いじゃ、南に笑われんぞ」ナツは淋しく笑う。


(南悪い。俺の桜も散ってったわ)

サクラと駆け抜けた、たったの5ヶ月

まさに春の夜の夢。


心の中でナツは、何も出来ないまま大切な人間を2人も喪った悪夢のような事に対しての悔恨の嘆きをリフレイン(繰り返す)していた。

(一体どれだけ強くなればこの悲しみを乗り越えられるのだろう?)


岡本川の水面に写る6月のくすんだ灰色の空。


(落ちてくればいいのに)
ナツは小さく願ってみた。