サクラは電話を切るとその場に泣き崩れた。


いくらトルエンに苦しみを預けようとしても現実から逃してくれないのは、苦悩が大き過ぎたから。


(来て欲しい)

(来ないで欲しい)


身を引き裂くようなジレンマー

弱さに負け、決心がぐらつく覚悟で、ラリったフリしてナツに電話した。



「来ないで!」



そう言ったのは、弱さ故の強がり。

愛してるが故の自責。


(たぶんナツはもうすぐここに来る)


そう思った矢先、ティモシーの音が下で止んだ。

サクラはゆっくりと立ち上がる。




ナツが屋上に辿り着くとサクラはフェンスの向こう側に居た。

金色の長い髪の毛が左から右へ流れるゼファー[そよ風]に梳かされる。


「来てくれたんだ。よかった」


振り返らずサクラは言う。


「当たり前だろっ。つーか、何やってんだよ!取り敢えず、こっち来いよ。なっ!?」


「取り敢えず.....好きだったなぁその口癖」