全てが思い通りにいってるかのように見えた。

デビュー曲はいきなりTVドラマのエンディングに抜擢され、様々なメディアで取り上げられた。

最初こそメンバーは勿論、ナツ自身も喜び、ある意味達成感に包まれていた。

しかし、ナツの中で微妙な心の変化が少しずつ、でも確かに起こり始める。


「ナツ、最近元気ないけど、なんかあった?大丈夫か?」

「別に何もないよ。ありがと、アユム」



いくら曲が売れようが、評価されようが、ミカンは帰ってこない。

そんなことはとっくに分かってた事なのに。

(この先、俺は何を頼りに生きていけばいい?)

目標の為にだけ必死で生きてきた人間は、それを達成してしまうと、気が抜けたようになる。

達成感の後にくる、喪失感にナツは苛まれる。


感情は煩わしさを伴った。







着けっ放しのTVから流れる真夜中のコメディ。