不埒な夏が惜しむことも無く熱線を撒き散らし

あれだけ近くデカかった灼熱の太陽は小さく遠のき

焼けたアスファルトの匂いも懐かしい秋へと移ろいだ。



ナツとコヤジは毎週あるビルへ通っていた。

その中の一室。

ナツは上半身裸になり、汗臭く汚い布団の上にうつ伏せている。


部屋中に反響する機械的な音。


まだ若い20代の作務衣を着た男がナツの背中の上で手を彷徨わせている。

作務衣の男は右目の下に涙マークを彫っている英太郎という彫師で、ナツとコヤジの2人に刺青を彫っていた。

ナツの背中に描かれていく、月下美人[夏の満月の夜にだけ数時間咲く花]と鳳凰が少しずつ完成に近づいてゆく。

額を走る汗。

刺す針は容赦なかった。

その痛みを例えるなら、錆びきったカッターで刻まれている感じ。

しかし、その痛みを持っても心の痛みには、これっぽっちも届かなかった。