「何言ってんの?今迄慘々色んな奴傷付けて来たくせに......ってサリーなら言うだろうな」


サリーとアユム、マーサは音楽を本気でやる為に東京に行ってしまった。


「だよなぁ。ハァー、全っ然駄目だ。辛い事いっぱいあったのに、サッパリ打たれ強くなんねぇわ。ハハッ」

「バーカ。辛さや痛みや、哀しさ淋しさがあって初めて優しさが生まれんだろ?打たれ強くなる必要なんてねぇよ。お前はその分、人一倍優しくなれてんだよ」

コヤジはマッチで煙草に火を点けて煙りをくゆらせた。

「そっか。サンキュ」

ナツは目を閉じてコヤジの言葉を何度も咀嚼[噛み砕く]してみる。

そして声に出さずに呟いた。

(でも、その優しさで誰かを傷付けてしまう人間はどうすればいい?)

窓1つ無く光の届かない地下室の中で、辛うじて自分の存在を示してくれるマッチの灯りは頼りなく揺らめく。

(このマッチが尽きたら俺はどうなるんだろ?)