その夜、ナツはコヤジとバニラのカウンターに並んでいた。

珍しく派手に酔うナツを見て

(当分は傍にいてやろう)

コヤジは考えていた。

酒で忘れられるならいいが、目覚めたらきっと心細さに自分を見失うだろうから。

これから先、怠惰と暴力の日々に酔いどれて、男として残されている一握りの美学までもが欠落してしまうとしても、ナツを放っておけなかった。

[青臭い]なんて言葉では到底片付けられない。

裂けたザクロのような十代を迷いながら生きてきたナツを、何も知らない奴等にインモラル[不道徳]と呼ばせたくないから。


気が付けばいつもコヤジが居てくれた。

それが平静との媒介となる最後の砦だとはナツ自身が気付かない程、自然で寛大だった。

「なぁ、コヤジィ。生きてるだけで傷つく事っていっぱいあんだなぁ?」

カウンターに頭を乗せて、グラスの中の氷をカランと鳴らしながら、呂律の回らない口調で訊ねる。