大事な事は、いつだって手遅れになって気付かされる。

気付いた事を伝えたい人はもう隣にはいない。


「トムさん、この曲止めて下さい」

ナツは店に来て一時間ぶりに口を開いた。

トムは何も言わず、軽快なロックナンバーをセレクトした。





ナツの携帯が鳴る。

(もしかして!?)

淡い期待。

掛かってくるハズもないのに。

未だに番号を変更出来ずにいた。

ディスプレイには[こやじ]

落胆の色を隠せぬまま通話ボタンを押す。

右耳に電話が当たる瞬間「カチッ」と音がした。

「もしもし。えっ、今バニラ。.....迎えに来い?フザケンなよっ!雨降ってんだろ!.....よくねぇよ、俺は雨が大っ嫌いなんだよっ!来たけりゃタクって来いよっ。じゃあな!!」


(雨は嫌い。あの日も雨だったから)

翌日、TVのキャスターが梅雨入りを宣言した。