「俺より好きなのか?」

「うん」

ミカンは小さく頷く。

「ふざけんなよっ!」

喉まで出掛かったセリフをギリギリで押し戻す。

空からは涙雨。

たちまち恋仲の2人をスブ濡れにしてゆく。

辺りを通り過ぎる人達は、すぐそこで小さな小さな恋が終わりを迎えているなんて無関心で、手持ちの傘を広げていく。

ナツは冷たい空気を呑み込み、心の熱を少しでも冷まそうとする。

(俺より好い人がいて、
そしてソイツを好きになった。
ただそれだけの事。
心変わり。
よくある話)

「ふぅ、分かった」

平静をかき集めてやっと言えたあまりにも短い一言。

ミカンは物分かりの良すぎるナツに傷つき

そして

目の前に居る愛しいと想える人の心が震えているのを見て遂に泣き出した。

(今ならば暗闇と雨の滴が涙を隠してくれるハズ)

愛する人を苦しめる事で心は嫌悪に苛まれ、限界はとおに越えていた。