ナツはミカンに会えない時間の中で痛切に感じた事があった。

(いつもミカンが傍に居てくれたら)

そして今日、その気持ちの先に在った陳腐(ありふれた)な結果を告げようと決めていた。

(今すぐとはいかないが、いずれ)

生まれて初めて現実に考えた結婚。

(ミカンは何て言うだろう?喜んでくれるだろうか?)

待ち合わせ場所に向かう途中、1人で顔を綻ばせながら倖せの臨場感に浸るナツ。



四月の肌寒い黄昏れ時

それをさらに早めるかのように分厚い雨雲が空を覆う。


それぞれにある

『出会い』

『別離』

『再会』

の季節。

今日のこの演出の主役は『別離』になるだろう。

(再会の自分には煩わしい天気だ)

ナツはしかめっ面をする。

別れの涙を誘うような、ありがちな雨の夜が間もなく始まる。


(俺には関係ねぇけど)


ナツはようやく人波にさらわれた。