電話を切ったナツの胸に小さな悪い予感が芽生えかけたが、思い過ごしの杞憂だと無理矢理言い聞かせ、バニラへ向う。


如月の肌を刺す風に棚引くマフラーが

「バイバイ」と

手を振るように見える。



あれから毎日電話で話すようになって、残酷にも2ヶ月が経った。

2人では狭すぎるベッドからは日に日にミカンの匂いが消えていった。

この2ヶ月間ナツは

電話からミカンの声を聞けば会いたがる欲求を押し殺し

電話が遅い日には、愛欲のもどかしさに有害を感じながら

ただひたすらミカンの口から約束が出る日を待ち続けた。

ただの一言も「会いたい」と言うこともなく、ただ

「俺が傍に居るから」と
繰り返した。

それから間もなく

寝ても覚めても消えない、質の悪い渇望を持て余すナツに、ようやくの再会が許された。

心では想いが納まりきれず溢れ出すナツ。

それとは相対的に
ミカンの心はどこか上の空だった。

だが、今のナツは嬉しさのあまり、それに気付けずにいた。