「貴様・・・!よくも天馬と鞍馬を!」

 佐久間はそれでも気息を落ち着けるとすうと息を吐き、大きく肘を張って雷刀に構えた。

 左足に重心を掛け、少し前に出した右足の指が反り上がって上に向いている。お前も構えよと怒りに狂った目が言っている。
 修理は万作を横に放すとちらと顔を見た。万作の瞳は美しく潤み、その微笑みは愛しい人への信頼を示していた。

 柳の間に居た三人は落ち着きを取り戻し、それぞれの座に座っていた。この場に及んで、後は修理とその命運を共にするしかないと悟っていた。

 秀次が言った。
「儂は百姓の出だが、侍として御身の様に刃(やいば)の中に身を置いて見たかった。はじめて合戦に出た時はそれはもう・・・恐(おそろし)くて、負けた時は情けなくてな。可児才蔵にも叱咤され・・・政源から富田流を習ったがうまくはならなんだ・・・」
 そして天下人らしく笑いながら言った。
「この場で最高の侍の技をとくと見れる。冥途の土産にこれに如(し)くはない」

 修理はいくさの顔に戻った。

 この相手は他の二人とは格段に違う。穢れた性向が無ければ、当代に名を知られた剣客となろうものを。

「いざ!陰流、海藤修理!」
「鬼一法眼の流れ、佐久間一雲!」

 佐久間の雷刀は真上、右(順の切り)、左(逆の切り)と剣筋は縦横に変化するだろう。剣理から言えば、それを一つにさせるようにすきを作るのだ。真上から頭を狙わせる様に。

 修理の構えは剣と右足を後ろに引き、左半身となり、剣を臍のところで持って構える『車の位』!
 講堂の外には異変を聞きつけ足軽達が槍ぶすまを作っている。誰が出てきても何十もの槍に突き込まれ寸断されるだろう!

 関白が照覧する地獄試合!

 相手は鬼神の使い手!