佐久間が高い八艘から凄まじい速度で切り下ろす!

 静音が戦った伊那作兵衛と同じ刀法であるが、人間工学的にこれほどの威力を持つ切り方はない。示現流の『とんぼ』も新当流の『一ノ太刀』も必死の心でこの切りを行うと言う。違うのはそれぞれの剣法の練習の仕方、心の説き方なのである。
 これほどの切りをまともに受け流すことは出来ない。しかも両側の侍が波状に斬りかかってくる気配を感じた!
 佐久間を避けても二重、三重の切りが襲ってくる。

 修理は咄嗟に左に飛んだ!佐久間の剣先が懐を切り裂いた!左の武士がそれを見て足を止め、剣の切っ先を倒れた修理に狙い直した。
 修理は刀を差しておらず、左手に鯉口を切って持っていた。だが鞘を払う余裕はなかった!

 右手で鞘に差したままの刀を、修理を狙って突こうとする武士に振った。慣性で鞘がその武士に飛んで額に当たった!
「ぐ!」

 その瞬間、修理は身を起こし右膝を床に着けたまま左足を横に踏み出した!そして抜き身になった刀を、左肩から横一文字に振り切った!
「ぐわあ!」
 左の侍の右太股が両断され、転げ倒れた。修理はその左横を腰を低く駆け抜けた!佐久間からは斬られた侍が盾になる。

 佐久間の右後ろの武士は、暗闇の中で何が起こったか分からない様だった!
「がっ!」

 その侍が分かったことは、修理の剣が横に自分の右脇に突き刺さったことだった!肋骨の間を突き背骨を砕いていた。既に意識は失せ、血を最後に吐いた。修理の顔に掛かった!
 素早く修理は刀を引き抜き、万作の方に退く!
「修理様!」

 万作が修理の背中にしがみついた。