「何をする!」

 万作は叫ぶと、柳の間にいる者達に言った。
「御屋形様をお外に!」

 秀次と雀部、山本がはっと立ち上がり壁に張り付いた。雀部が戸を力一杯叩いた!

「木下殿!狼藉じゃ!ここを開けろ!」
 佐久間は大声で笑い言った。

「無駄じゃ!外では楽が奏でられて居る。それにいかな物音がしても、戸を開けるなと言い渡して居るわ!」

 青ざめた秀次が言った。
「何故じゃ!これも叔父上の差し金か!」

 佐久間は笑い顔を納め、うやうやしく言った。
「その通りですな。関白殿下!太閤様の御怒り並々ならぬものがおありで」
「どうするつもりじゃ!」

 佐久間は前に踏み出した。万作は脇差しの鞘を抜いて飛び下がった。
 佐久間は刀の切っ先で虫の息の三十朗の帯を切った!
「ふふ・・・この三十朗もそそるのう・・・関白様の御近従は天下の美形を揃えられておるからのう」

 万作が身構えて叫んだ。
「何!」
「ここで関白様は御本性をお現しになり・・・お小姓達の腹を切り裂き、その切り取った徴をお含みになる」
「・・・け、けがわらしい!」
「そしてそのまだ暖かいお蕾を何度も愛された後、気が狂われて喉をお突きになって果てられる・・・」

 万作達は分かった!ここで狂乱の結果を天下に見せて、歴史の上からも秀次の人格も業績も葬り去ろうということか!

 秀次は怒りで身体が震えた。
「何という・・・無慈悲な叔父上よ!呪ってくれる!」

 佐久間達は嗤った!
「万作!お前はこの中でもひときわ美しいの!儂はお前を見た時からその肉体が欲しいと思って居った・・・こやつらも皆、色小姓が好きな者達ばかりでな!関白殿の代わりに命が消えるまで儂等が何度も可愛がってやるぞ!ぐはははは!」

「巷で妊婦の腹を切り裂いて、御屋形様のせいにしたのはお前等か!」
 佐久間達は答えず唇を野獣の様に舐め回した。

「我等、首切り、お試し切りを申し受けるお役目。相手が生きて居ろうが死んで居ろうがの。地獄からの使者よ」