十五日の朝。

 最後の朝餉の膳を、修行僧達が下げると秀次と四人の殉死者は柳の間に案内された。そこには四方と呼ばれる白木の台の上に、切腹用の各人の脇差しが白鞘に入れて乗せてあった。

 柳の間の外の濡れ縁には、警護の武士が上下(かみしも)を纏い正座している。庭には襷鉢巻きに裁っ着け袴の軽武装した数十名の足軽が、槍を持ち片膝を突き整然と並んでいた。

 死に装束の五人が席に着くと、柳の間の雨戸が閉められる。そして講堂へ続く戸が開けられた。そこには見聞役の木下吉隆等が居並ぶ筈だ・・・

 しかし講堂はがらんとして床几(しょうぎ)も無く、誰も居ない!
「・・・?」

 戸を開け閉めした侍達が全て出て行った。
 万作はいぶかしく講堂を見た。講堂の戸も硬く閉められて、戸の上の明かり取りからしか光りが入って来ない。

「御屋形様、ご用心を!」
 万作は前の脇差しを取って講堂に踏み込んだ。
 すると真暗い隅に誰かが座っている!

「誰じゃ!見聞役殿はどこにいる!」
 人影が一人ずつ立ち上がり、ゆっくりと明かりの中に出てきた。
 それは秀吉から警護役として遣わされた屈強の剣士の三人だった!

 万作はやはり来たかと思った。太閤のなんと陰湿な憎しみよ!

 万作の後ろに付いてきた三十朗が言った。
「佐久間殿!これはどうした事で御座る!」
「ふふふ・・・儂等が冥土の旅の案内(あない)を仕る」
「何!」
 佐久間と呼ばれた男の後ろから一人の武士が飛び出し、三十朗にぶつかった!
「ぐっ!・・・」

 三十朗の身体はその武士の刀に刺し貫かれていた!