朝餉を円座で食べた。

 上に庄左右衛門、両側に修理と万作。下に捨吉がおさんどんをしながら食べる。
 武士の食事は無言である。捨吉だけがぺらぺらと、京の出来事を面白おかしく語って聞かせる。庄左右衛門がわははと笑い、万作が顔を下にして上品に笑う。

 修理は父と下男がいた頃を思い出していた。同じ歳ほどの庄左右衛門が父の新右衛門に重なる。万作は・・・静音か・・・

 万作は膳が下がると、再び修理の前に手を突いた。
「修理様・・・是非貴方様にお頼みしたき義が・・・」
 修理はもう警戒心を解いていた。だがとんでもない事に巻き込まれたと思った。

 相手は天下人だ。関白秀次と太閤秀吉の確執!
「御屋形様を守って頂きたいのです!」
「関白様をか?・・・警護の者は他に幾らでもおろう」
「太閤殿下は・・・最後に御屋形様を辱めるおつもり!お世継ぎの為に御屋形様を後世に大悪人として喧伝するお心に御座います!」
「何と!」

「既に御屋形様の御正室、ご側室、それらの御子、親戚の者達三十余名が蟄居、閉門を言い渡されております!太閤殿下は御屋形様の御眷属、ことごとく抹殺されようとのお心!」

 修理は呆れた。
 世継ぎが産まれないので秀次に関白を譲ったのに、世継ぎのお拾(ひろい)が産まれた途端、実の甥を排除しようと画策するとは!
「御屋形様の主立った家来も蟄居させられ、太閤殿下の息の掛かった警護の者しか居りません!それも名だたる手練れの面々!」

 万作は続ける。
「それも警護とは名ばかり!夜も昨夜の様に自由に御屋形様を外に出し、知らん顔をしています!御屋形様の御名をご自身が貶めることを待っている!」
 頭を深く下げた。

「これは御牢人の貴方様しか出来ません!どうか、我主人を潔くあの世に行ける様にお守り下さい!」