修理は、口に当たる柔らかいものの感触に目が醒めた。

 目を開けると万作が自分の唇を舐めている!

 不覚!

 がばと起きるともう障子に日の光が差し込んでいる。
 万作は乱れた髪に裸身を帷子(かたびら)で身をくるみ、胸に腕を交差してそれぞれの襟を持っている。足を横にして座る姿は女の様だ。手首にはくっきりと縄の跡が付いている。

 くすと笑うと、
「・・・修理様はひどいお方。戒められた私をそのままにして寝てしまわれた」
 修理は頭を掻いた。

「自分で解(ほど)いたのか?」
「はい・・・関節を外しました。まだ痛みまする」

 万作はそのままの姿勢で、手を前に突き頭を下げた。
「お願いです・・・昨夜のことに免じて御屋形様のことは忘れて下さい!」
 修理は仕方がないと思った。
 不覚にも交合の果てに寝てしまったが、まだ生きている。
 長旅で鬱積した劣情も吐き出した。静音に合わせる顔はないが・・・。

「万作殿のご主人は、関白秀次殿か」
 万作は目で肯定した。

 その時、障子の外で捨吉が来て言った。
「お二人様。朝餉の用意が出来て御座います。ここにお召し替えを置いておきますので・・・へえ」
 万作が取りに行こうとして立ち上がろうとしたが、ふらとしてまたぺたんと手を突いた。
「万作殿!」
 修理が万作の肩を抱くと、

「えへ・・・修理様・・・腰が抜けました。これまでどれほどの男の子を泣かせたのですか?」