「俺らは魔王かよ」
「勇者が必ずしも正義であるとは限らないよ。モンスターにとっては殺戮者でしかないし。民家のタンスを勝手に開けるし」
タンス云々に関しては少し違う気もするが、シオンは聞き流した。
「星の数ほどある世界の中には、僕達の世界に何らかの影響を及ぼす世界だってあるんだ。大抵は悪影響だけど。」
「自分たちにとって不都合な世界は消すってか。何だかなあ」
「綺麗ごとだけじゃあ世界は救えないよ」
「そこは現実的なんだな、やれやれ」
まあ、理想と現実って大抵は異なるものなんだよな。理想論者は世界を明るくするけど、理想論者だけの世界は早々に滅びる。
何というか変に現実的な部分のある状況にシオンは溜息をついた。
「うーん・・・意外だな」
「何がだよ」
「いや・・・ね、この状況下で“呆れて溜息をつく”なんて、シオンも相当肝が据わってるよねって思って」
それはさっき俺も思ってた。
何度目かの心の突っ込みをリクにする。
「やっぱりシオンは普通の人間とは違うよ。保証する」
お前の保証ほど信用できないものも無いのだが。
「肝が据わってるのはお前もだろ。さっさとその歪みを探して進入したほうがいいんじゃないか?」
「いや、探してるから。今この瞬間も」
リクはさっきから読んでいた(と言うよりも、見ていた)本を持ち上げ、片手でポンポンと叩いた。
「これも違うな・・・シオンも探すの手伝ってよ」
「探すって・・・歪みはまさか、本の中か?」
リクは首肯した。
そして席を立って本棚からまた本を選び始めた。
「図鑑とか百科事典みたいなのにはまず無いから、物語・・・特にファンタジーとかSFとかみたいに非現実的な本にある可能性が高いよ。あとは恋愛物で作者の妄想が入ってるかなり痛いやつとか。」
リクは「例えばこういうの」と言って“貴方に逢いたくて、愛たくて”というタイトルの本を手に持って軽く振った。
確かに痛いタイトルだな・・・。
と思いながら、シオンも本棚から歪みの生まれそうな本を探していた。

