「まずこの空間について簡単に説明するね」
リクは目は本に向けながら説明を始めた。

「別の空間とは言ったけど、この空間は僕達が今まで生活してきた空間を元にして作られているから構造は全く同じなんだ。違うのはここにいる生命体が人間二人だけってこと」

シオンとリクの事である。リクは続けた

「他の人たちはちゃんと元の世界に居るから心配しなくていいよ、途中で空間に断層が生まれてクラスの皆は混乱しただろうけど・・・」

このあとリクは信じられないような事を言い出した。

「もうこの空間は元の世界から隔離してあるから、もう大丈夫」

「か、隔離って・・・じゃあ元の世界に帰れないって事か!?」
「大丈夫、ちゃんと帰る方法はあるよ。ただ・・・」

このあとに続く台詞は大抵事態をより悪化させるものと相場は決まっている。そして、

「少し時間と労力が必要だけどね」
予想を裏切らず、期待は見事に裏切られた瞬間だった。

「この空間はね、特定の人間やその他の特殊な物体が原因で発生するんだよ」
「特定って?」

「人間の頭脳とは最小にして最大の世界。こんな名言をどっかの誰かが言ってるのを知ってる?」
どっかの誰か、という曖昧でいい加減なところが普段のリクらしかった。

「人間には創造と想像、二つの素晴らしい力が備わっているんだ。一つの世界を生み出してしまうほどの、ね」
「つまりこの世界は人間の想像力が生み出したものなのか?」
リクはワザとらしく感心したような顔をして、拍手を3回ほどした。
「さっすがシオン。英検1級は伊達じゃないね」

準1級だ、準1級。
分かってて間違えていそうなのがシオンは余計に腹が立った。そもそも英語能力がこの事態を理解するのに関係があるのか、疑問である。

「半分正解なんだけどね、ここは人工的に生み出された空間だから」
「人工的って、誰が作ったんだよ?」

リクはニヤリと笑っていた。

「ま、まさか・・・お前が?」
リクは「ふふーん」と得意げに笑った。
「まあ意識的に作り出す空間では、既存の空間の構造を模倣するくらいが関の山だけど・・・ん?」

リクはシオンが「お前がそういう非現実的な能力を使うなんてありえない」という顔をしているのに気が付いた。