シオンは図書室の前に着いた。
だが、扉を開けようとしたが、開かなかった。
鍵が掛かっていたわけではなく、“開けるようとすること”が出来なかったのだった。

シオンは扉の向こうから感じる異様な何かを感じ取っていた。
「く・・・・・・」
おい、どうしたんだシオン。何をビビッているんだ、さっさと扉を開けろよ、中は図書室だ。別に開けたらそこは異次元空間でした、なんてことは在り得ないだろう?

覚悟を決めて扉を開けた。そしてそこには


「やっぱり来たんだね」
リクが居た。
リクは少し奥の方の席に座って本を読んでいた。何の本かは遠くてよく見えなかった。

「リク、お前何やってんだよ!」
リクは何も答えなかった。立ち上がって本を手に取り、本棚に向かう。

「ソラも心配してたんだぞ!」
本棚に本を戻し、別の本を取った。

「待っていたんだ」
リクは席に戻る途中でやっと質問に答えた。

「待ってたって・・・誰を?」
リクは本を開き、ページを片手でめくる。
もう片方の手は、シオンを指差していた。

「ここ、何所だと思う?」
今度はリクが質問をしてきた。シオンは訝しげな顔をして、答える。

「何所って、図書室だろ。いつも来てる」
「うん、図書室だよ。でも、シオンはここに来るのは初めてだ」


全く以って訳が分からなかった。
もしかしたらリクはこの一連の不可解な出来事の所為で頭が木星辺りにまですっ飛んでしまったのではないだろうか。

「何を言って・・・」
言いかけたところにリクは続けた。

「ここはいつも僕達が来ている図書室とは似て非なる空間。オリジナルである“いつもの図書室”を模して作られた、本物とは全く別の空間なんだ」

とうとうリクが変な電波を受信してしまったようだ。
シオンはまだリクの言うことをまともに捉えていなかった。
元々そういった非現実的なお話は人一倍信じない性質だった。

「まあ、シオンのことだからどうせ僕が電波受信した、くらいにしか思ってないんだろうけど・・・」
普段のぽけーっとしているリクからは想像も付かないほどの的確な指摘だった。

普段のリクなら、何の脈絡もなく「そんなことよりカレーが食べたい」とか意味不明なことを言っているはずだ。