Melty Kiss 恋に溺れて

私の父には放浪癖があって、結果的に私は、幼い頃からずっと、ほとんどの時間を大きな銀家のお屋敷で過ごしていた。

だから、大雅にとって私は妹みたいなものなのだ。

女として、でなく。
妹として。

大雅は私をとてつもなく甘やかしてくれる。
大事にしてくれる。


それがすごく嫌で。
彼の恋人になりたい私はいつだって反抗的な態度を取ってしまうのだ。

「だけどっ」

さらに言い訳を重ねようとした私を、大雅はひょいと、まるでぬいぐるみでも抱き上げるかのように簡単に抱き上げた。

なんていうか、路上ではめちゃくちゃ恥ずかしいお姫様抱っこで。

「ちょっと、大雅っ。
放してよ」

「嫌ですよ。
私が手を放したら、何をしでかすか分かったものじゃない。
心配で仕事も手に付かない」

そういうと、彼は迷うことなくその道を歩き、大通りに迎えに来ていた黒塗りの高級車に私を抱えたまま乗り込んだ。

車を運転しているのは、大雅の部下の一人。
赤城(あかぎ)さんだ。御年40歳は超えていると思われるし、その顔にはちょっと聞いちゃいけないような深い傷も刻まれているけれど、大雅への忠実度合いはそりゃもう凄いものがある。

「明日から、赤城さんが運転するこの車で登下校してください」

「嫌って言ったら?」

私を抱きしめたままの大雅の胸元に、耳を寄せたまま、本当はどきどきしながら、でも、そっけなさを装って聞いてみる。