フィルナはエルフの森に住むと同時に、あの砂漠を庭場のように自由に行き来している。

その為に砂漠の自然環境や、その砂漠に生息する魔物についても詳しい。

「甲竜は昼間はその暑さから身を守る為に、砂の中に潜って眠っている。また夜も、極端な気温の低下から身を守る為に砂の中に潜る…つまり地上に姿を現すのは日の出の頃と夕刻の、ほんの僅かな時間だけなんだ」

そうだったのか…。

道理で目撃者が少ない訳だ。

希少種と呼ばれるのも納得がいく。

「それに甲竜の名の通り、非常に硬い甲羅を持つ。並みの剣では刃が立たないどころか、剣そのものが折れる。仕留めるのは容易ではないぞ?」

「覚悟の…上…」

ナハトが静かに、しかし強い決意を以って答えた。

ナハトとフィルナ、二人が眼差しを交錯させる。

が、ややあって。

「その強情さ、頑固さ…ナハト、お前はやはりドーラの民だな」

フィルナがフッと笑みを浮かべた。

そしてクルリと俺達に背を向ける。

「夕刻までこの森で過ごせ。甲竜が出没しそうな時刻になったら私が教えてやる…それまでは体力を温存させておくといい」