いつの間に俺のそばに近づいてきたのだろう。

その女は、俺に視線を投げかける。

敵意でも、善意でもない視線。

ただ行き倒れの人間に対して施しを与える。

それだけの感情しかこもっていない瞳だった。

「…エルフ…?」

「…そうだ。お前はファイアルの人間だな。今日もせっせと魔物討伐か?」

その言葉が、少し棘のあるもののように聞こえた。

「まぁいい。背負っているのは病人か…まだ歩けるか?もう少し歩けばエルフの領土の森がある…そこで休息させてやる。それまで何とか辛抱しろ」

「…わかった…」

俺は力を振り絞って立ち上がる。

「その女は私が運んでやる。お前はそのおかしな乗り物を運べ」

…エルフはファイアルの人間とも国交がある。

そしてエルフとファイアルが戦になったという話も、俺が知る限りでは聞いた事がない。

恐らくはこのエルフの女も信用できるだろう。

だから。

「すまない…ナハトを頼む」

俺は素直にナハトを任せる事にした。