犬飼家を出て数刻過ぎた頃、闘兵衛は闇夜の中に人の気配を感じる。 明らかに、その暗闇に潜む人物は気配を隠しているのだが、闘兵衛にとってみれば察知する事など造作も無い事であった。 「誰、だ?」 闘兵衛は相手の反応を窺う為、足を止め、暗闇に向け声を発っする。 「……相変わらず、獣並の察知能力だな?」 暗闇の中から、闘兵衛に対する悪態をつくように紙洲が姿を現す。 「あんたか……、こんな夜更けに何の用だ?」 闘兵衛も負けず劣らず、紙洲に憎まれ口をたたきながら、近寄っていく。