「だが……、アンタには借りがある」
表情を引き締め、闘兵衛は呟く。
「俺が街に居るかぎり、出来るだけアンタを手助けしたいと、思っているんだ。……だから、何でも言ってくれ」
闘兵衛は少しだけ表情を和らげると、桃華にそう語っていた。
桃華は一度だけ瞬きをすると、重い口を開く。
「……私と兄は幼少から剣術を、そこの爺に習っていてね。でもこの時代に剣なんてモノは、必要とされていなかった」
淡々と語る桃華は微動だにせず、さらに続けた。
「ある日、兄が出奔して行方不明になった……。噂では、海を渡ったと、聞いたが……」
徐々に声の質を、無意識の内に落としていく桃華は、口ごもりながらも、意を決っする。
「だから、犬飼家を守る為に兄の代わりを勤めている……。でも、闘兵衛を見て私にも覚悟が足りなかった、と……」
「人の思いなんざ、それぞれだ。……そうだな、お前の兄貴に出会ったなら、一発殴ってやるよ。妹に、迷惑をかけるなって、ナ?」
闘兵衛は桃華の気持ちを察するかのように、話しの途中で口を開く。
