闘兵衛は顔を合わせる事無く、横目だけでその男を確認すると、話し掛ける。
「あんたが……、紙洲さんかい?」
闘兵衛からしてみれば、この質問は当たりにしろハズレにしろ、次の情報を聞き出す為の最短の言葉であった。
だが、その男からもたらされた答えは、予想を超える事となる。
「あぁ、そうだ。アンタは、闘兵衛サンだろ?」
「!?」
男の回答は、想像以上であった。
紙洲と名乗る人物であると同時に、こちらの名前を言い当てるという妙技を見せる。
闘兵衛は半身を捻るようにし、身構えた。
「俺は……、こーゆー者だよ」
紙洲は闘兵衛の警戒心を払拭させるように笑顔を造り、上半身に纏っている半纏をはぐり見せる。
「岡っ引き……、か」
闘兵衛は紙洲の懐の帯にある十手の存在に気付くと、少し嫌そうな表情を作り自分への確信の言葉を漏らしていた。
