「……狼を見て、襲われた動物が無事にすむと思う人間は、おらんじゃろう?」
男の言葉に対し、闘兵衛は少し感心する。
「へぇっ、たいした眼力だな?……俺は闘兵衛。あんたは?」
闘兵衛の無作法な質問に対し、機嫌を損ねる事なく男は返答した。
「拙者は、緒方 剣山」
そう名乗ると、一刻の間を置く。
「……まっ、単に年を喰った浪人じゃがの?」
初老の侍、剣山は豪快に笑った。
「……俺も、犬と狼の違いは解るつもりだゼ?」
闘兵衛は剣山を睨み、いくばくかの緊張感を持って呟く。
敵か味方か、正体のわからない相手には、殺気をぶつける事が一番手っ取り早いといえた。
