――暗闇の中、足元もおぼつかない場所に闘兵衛は、立っている。




(また、か……)


闇を睨みつけ、闘兵衛は思考を巡らす。

あの刻から、下山したあの日から、毎晩見る悪夢だった。


闘兵衛が後ろに振り返ると、いつものように姉が父親の頭部を胸に抱き、立ちすくんでいる。



言葉は、ない。


死人であるから――



闘兵衛は歯を噛み締め、拳を握る。

いつもは、そのまま朝を迎えるまで悪夢を耐え続けるだけなのだが、今の闘兵衛は、少し違った。


姉らに背を向けると、歩を進め始める。



「前に進むサ……、俺が納得するまでな」



闘兵衛は誰に言う訳でもなく、自分に言い聞かせていた。