突然後ろに向きを変え、侍は口を開く。 「……貧乏長屋にいる、御見通しの紙洲って人を尋ねてみな?」 チラリと青年に視線を送り、さらに続ける。 「なにか、知っているかもな?」 「……」 肩透かしを喰らう形となった青年は、急激に殺気を萎めていく。 「あんた、何者だ?」 青年は何事もなかったように、侍に問うていた。 「桃太郎。……只の浪人だ」 美形の侍、桃太郎は簡潔に答える。 それ以上でもそれ以下でもない存在、という事であろう。