闘兵衛と桃太郎は、貧乏長屋を後にし、街中を歩いている。



「しかし、強いナ?」



桃太郎は、少し前を歩く闘兵衛の背中に声を掛けた。



「……山で獣を相手に、喧嘩をしてたからな」



背中越しに淡々と闘兵衛は答えると、歩調を変えずに進んで行く。


「へぇ~、本当かい?」


桃太郎はひとしきり感心し、何度も頷き呟きながら闘兵衛と並んだ。


「……フンッ……」


自嘲気味に口許を軽く緩ませて、闘兵衛は鼻を鳴らす。


「……!?」


闘兵衛の顔を盗み見し、桃太郎は少しだけ驚く。



そこには苦笑を変化させた顔があった。

哀しみに表情を曇らせ、後悔と苦悩を同居させる闘兵衛の顔が映ったからである。



「……」



桃太郎はその感情を、ただただ黙って、胸に納めるのであった。