紅拳は船首から掛けた縄の遠心力を使い、船から港までの距離を跳ぶ。
「ナニっ!?」
闘兵衛は、驚きの声を上げていた。
まさか人間が、海側から飛んで来るとは思ってもいない。
紅拳は空中で、その勢いのまま木の柄を振りかぶると、闘兵衛の頭上へと打ち落とす。
『バァキャッ』
木の柄が、砕け散る。
元々、硬さを優先させた木では無い。
軽さを求めているので芯も通っていない。だが、それでも、人間を破壊するには充分である。
闘兵衛は咄嗟に頭の上で両腕を交差させ、攻撃を防ぐ。
その攻防に耐えきれなかった木の柄は、呆気なく砕け散った。
しかし、それで終わりではない。
紅拳は着地と同時に流れるような動きで、闘兵衛との間合いを詰める。
懐に入り込んだ紅拳は、右の掌を闘兵衛の胸部に押し当てた。
寸勁、である。
力の流れを極めた紅拳には、関節の連動を最小限にして、破壊を目的とする技を放つ事が出来た。
先程、破壊された樽も、その体術によるモノである。
完璧な間合いは、戦いの終わりを確信させるのだった。
