男は後ろを振り返る事もなく、雑木林を抜けて、少し広がった草原にその姿を現わしていた。
「ゼェ、ゼェ……、や、山さえ抜ければ……」
息を荒げながら、男は己に言い聞かせるように、独り言を呟く。
「お前を、この山から、逃がさん……」
突然の抑揚のない声と共に、草原に湧き出したかのように、人影が姿を現わす。
「ッ!!?」
男は太刀の柄に手を掛けながら、臨戦体勢を作ると素早く振り向く。
「お前に、聞きたい事がある」
そこには、外套を脱ぎ捨て淡々とした口調で語る一人の青年、闘兵衛の姿があった。
(ま……、丸腰?)
闘兵衛の姿、無手である事から危険性を排除した男は、太刀の柄から手を離して、その後の動向を探ろうとする。
『フォンッッ』
次の瞬間、外套だけを宙に残し一瞬で男の眼中から、闘兵衛の姿が消え去っていた。
