月が頂上に移動した頃、長崎の地に足を踏み入れる、人物がいた。 闘兵衛、である。 豊後、今でいう大分から二日と半日で、長崎まで強行を通すという異常な健脚振りであった。 (……何だ?) 闘兵衛は街の異様な静けさに、顔をしかめる。 家の中に人の気配は、感じられた。 だが、息を潜めナニかが通り過ぎるのを、待っているかのようである。 街の通りには人の姿はなく、闘兵衛は宛てもなくさ迷い始めた。