復讐、怨恨、自分の中にある負の感情に冷笑を浮かべる闘兵衛に対して、桃太郎は意を決したように、声を掛ける。
「そんな、悲痛な顔で、か……?」
桃太郎から発っせられた言葉に、闘兵衛は驚愕するように目を見開く。
神経を逆なでされたが如く、逆鱗に触れた桃太郎を闘兵衛は激しく睨みつけるのであった。
無言の、間。
そんなやり取りを知ってか知らずか、当初の目的を発見した紙洲が、短く声を発っする。
「……いた、ゼ」
巨大過ぎる樹木に、過剰なほど身を縮め隠れている、人物がいた。
「木林の、旦那ぁ」
紙洲はその人物に、小声で呼び掛ける。
「……遅いよぉ……」
その人物、木林と呼ばれた男は情けない声を出しながら、紙洲の方向に振り返った。
黒い紋付の着物に、大小の刀を脇に差している。
「同心の、木林さんだ」
卑屈な態度の木林に対して、訝し気な闘兵衛に、桃太郎は横側に近寄り小声で説明した。
