―場と、時が変わり―
鬱蒼とした樹木が生い茂る獣道を、一人の男が歩いている。
編笠を被り、厚手の着物を纏い、登山をする為の恰好をしていた。
「……まるで樹海だな」
その男は額の汗を腕で拭い去ると、ボソリと問い掛けるように呟く。
遠目から一瞥すると、まるで、妖怪のっぺら坊のように顔の部品が見当たらない。
しかし、近付いてみると立派な鷲っ鼻を中心に、切れ筋のような両目と唇が、ウッスラと見える。
男の名は、紙洲という。
街では十手を預かる岡っ引きを生業としており、そこそこ名前の知られた人物であった。
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