不意に鬼人は皐月に背を向け、歩き出す。 「どちらへ?」 皐月は鬼人の背中に、伺うように声を掛ける。 「……緒方殿が亡き今、この島に興味はない」 鬼人は振り返らず、正面を向いたまま返答した。 「そちらは、街の方角ですが……?」 皐月は少し冷たい目で、鬼人を睨む。 「野暮用があってね、失礼するよ……」 鬼人は片手を挙げると、暗闇の中に消えていく。 鬼人の周りに漂っていた猛獣のような気配も、共に消える。 皐月はその暗闇を睨みつけ、静かに闇と同化し、姿を消すのであった。