「……コレが、その人相の原因かい?」
紙洲は紙切れを受け取ると、伺うように闘兵衛に問い掛ける。
「知っているのか?」
闘兵衛は無視するようにその問いに答えず、紙洲の顔を見据えて、さらに問い掛けた。
一瞬の間が空き、紙洲はその紙切れの、墨で描かれた奇妙な印を眺めて、独り言のように呟く。
「……鬼鴉、だ」
「おにがらす?」
紙洲から齎された、聞き慣れない単語に、闘兵衛は直ぐさま反応する。
「……つい先日、商屋に賊が入った」
玄関から土間に向かって話し掛けている闘兵衛の後方より、凛とした声が掛かった。
「……桃太郎」
闘兵衛の後ろの通り道に美形の浪人、桃太郎がしなやかに立っている。
その姿を認めて、闘兵衛は名を呟く。
紙洲は平然としたまま、二人のやり取りを無視するように、語り始める。
「そう、……商屋一家は皆殺し。大量の金を奪った上、血糊でベッタリと壁に、この印を残して去ったのサ」
紙洲の淡々とした言動に対し、闘兵衛は無意識の内に胸を抑えていた。
