ゆっくりと、教師が少年のほうを向いた。顔に、少々臆した感がある。

「あ~、……御冠神楽君……?」

 尋ねる教師の顔を、汗がなぞった。それでも、少年はピクリとも動かない。

「……あ~、……もういい……」

 諦めた教師が涙目で黒板に向き直った。そして、解答の続きを書こうと、チョークを手に取った瞬間。

 ガタン! ――。

 ビクッ、と、クラスの全員が身をそらした。
 教師までもがだんまりを決め込み、まさに教室は異様な沈黙に包まれた。
 その沈黙の原因である少年は、瞑っていた目の右目だけをゆっくりと開いた。
 ナイフのような鋭利な目。瞳は小さく、いわゆる三白眼。そして何より、裸眼であるに関わらず、外国人でもいないような、黄水晶(シトリンカラー)の瞳……。
 片目だけを開いた少年は、「あ~ぁ」と大きな欠伸をかました後、ポケットから懐中時計を取り出し、

「……あと十分か……」

 とへビィなハードバスヴォイスで呟くと、再び目を閉じ、下を向いた。
 後に残ったのは、教室全体を覆う異様な沈黙と、少年の目を正面から見てしまった女子生徒が失神してしまったという事実だけであった。