そう。確かにそれは人の形をしている。だとしたら、その周りの赤い何かは……血?

「麟紅くん……?」

 状況を感じ取ったのか、それともただ単に麟紅の形相が怖いからか、アズラクが恐る恐る角の様子を見つめる少年に尋ねた。

「アズ……お前、このまま向こうに走れ」

「え? な、なんで……」

「いいか」

 ら、と言葉をつなごうとした時、女がこちらを向いた。
 慌てて顔を引っ込め、呼吸を落ち着かせる。
 女はまだこちらに気付いていないのか、何の反応もない。
 麟紅の額を汗が伝った。
 ゆっくりと麟紅はアズラクを後方へ押し戻し、角から距離をとる。
 角から五メートルほど離れたか、そろそろ走り出してもいい頃合いだ、と思った瞬間。

「竜王術……見ぃつけた……」

 足が止まった。ゆっくりと顔をもといた場所へ向けると、そこに先ほどの女が立っている。

「へぇ、それが予知眼かぁ……生で見るのは初めてだねぇ」

 くすくすと、女は笑った。