素直になんかなれない



だらしなく下げられた腰パンに、明るい茶髪の隙間から見えるピアス。

腰からぶら下げられたウォレットチェーン。

履き潰した上履きは
歩く度にペタン、と鳴って。




一見怖そうに見えるけれど
本当は優しい人だって事、あたしは知ってる。

昴から、何度も彼の話を聞かされていたから。




「…悠くん、」

「何ぼーっとしてんの?あ、しかもこれ俺のだし。」


わざとだろ、そう言いながら落ちたプリントを拾い上げる悠くんの口調は、ちっとも怒ってる様子なんてない。



だからあたしは安心して悠くんに笑顔を見せた。



「ごめんね。つい考え事しちゃって、」

ありがとう、と続け
プリントを受け取ろうとすると
悠くんは何の躊躇いもなく口を開いた。




「…昴の事、だろ?」


その名前に、ズキンと胸が痛みを知らせる。



ヨッシーはあれから
あたしに気を遣ってか、昴の名前を口にする事はなかったし

あたしも昴の事は話さなかったから、こうして人から彼の名を聞くのは久しぶりで。



だからこそ、驚いたあたしに
悠くんは寂しそうに笑って言った。


「フラれた、ってアイツが言ってたから。」