素直になんかなれない



走って走って
とにかく、走って。

早く、昴の声が聞こえない場所まで逃げたかった。




嫌われるのが怖くて、ずっと言えなかった気持ちを

別れると決めてから言うなんて。



…あたし、バカみたい。

それでも
伝えた事に、後悔はなかった。




あれが、あたしの気持ちの全てだから。







昴の手を振り払い
走って家に駆け込んだあたしは

勢いもそのままに、自分の部屋に逃げた。



バタン!と乱暴に閉めた扉。


外側に掛けていた“ねね”と書かれたプレートが、扉にぶつかって大きな音を立てる。



それを聞いたお母さんが

「寧々~っ、うるさいわよ!?」

と、1階から声を張り上げた。



「……はぁ…っ、」

その声をどこか人事のように聞き流し
未だ乱れる肺へ、思いっきり酸素を取り入れる。


徐々に呼吸が落ち着いてくるものの
胸の痛みは、みるみるうちに広がっていって。


力を失った体は、扉に沿うようにペタン、と床に崩れ落ちた。