あたしは、一度小さく息を吸い込むと濡れた頬を手で拭いながら言った。



「…嘘じゃ、ない。」

冷え切った夜風が、泣いた目に染みる。



こんな小さな声は
昴に、届いただろうか。

背中を向けてるから、昴が今どんな顔してるかわからない。



だけど、振り返る事は出来なかった。

だって
今のあたしはきっと、相当酷い顔をしてるから。




しばらくして
張り詰めた沈黙を破ったのは、昴だった。



「寧々…、こっち向いてよ…。」


消えそうな程、小さな声で。


「…なぁ、向けって……。」


喉から絞り出す程、かすれた声で。




昴が、あたしを呼ぶ。



「……寧々…っ、」


胸が、どうしようもないくらい痛い。

ちぎれて、ぐちゃぐちゃになって、今にも潰れそうだ。




ねぇ

昴もあたしと同じ、この痛みを

張り裂けそうな悲しさを
今、感じてる?




今まで、考え方も
何もかも違ったあたしたちだったけど

この痛みだけは
同じだったらいいな。



同じ、悲しみなら
それだけで、もう構わないと思えるから。