それからあたしは
冷たい夜風に吹かれながら、いつもなら20分で帰れる距離を

40分以上掛けて家に帰った。



本当は帰りたくなんてないけど
それでも、あたしの帰る場所はここしかないから。

腫れた目を隠すように
リビングを過ぎ、自分の部屋へと駆け上がる。


途中、お母さんが呼ぶ声が聞こえたけれど
あたしはそれを無視して、部屋の扉を開けた。



部屋に入ると
まず制服を脱ぎ捨て、テレビを付ける。

早くしなきゃ、また涙がこぼれそうで。


ブラウン管から流れるお笑い番組を
かじりつくように見つめた。



……でも、一歩遅かったみたい。


あたしの頬には
止まったはずの涙が伝っていて。


「やだ、また…、」



『…昴には、奈雲さんは釣り合わないっ!』


瞬間、思い出した美帆の言葉が
あたしの顔から笑顔を消していった。




「…っ、」

もう嫌だ、こんなの…。

何で、あたしばっかり
こんなに苦しくならなきゃいけないの?


何で、あんな事
美帆に言われなくちゃいけないの?



「…もぉっ、止まってよぉ…っ!」


もう、泣きたくなんかないのに―――。



そんなあたしの願いも虚しく
涙は、日を越えても止まる事はなかった。