「どんな用事があっても俺の用事を優先しろ、いいな?」

「はい」

「じゃ、もう用はねぇから下がれ」

「…それでは、失礼します」

パタンッと小さな音をたてて戸を閉めた。
揚羽が出て行くのを確認してから李音は今までとは違う笑みを浮かべる。

「面白い奴」

その笑みはさっきまでとは違うとても優しい笑顔だった。
好奇心で手に入れた女、それが揚羽という女。
今まで近づいてきた女は皆財産や金目当て。
だがコイツは違う。
他の女とは違う何かを感じた。

何のために一千万も必要だったのかは知らないが
自分で自分を売ってくる女なんてそうそういない。
面白いと感じた。
だから手入れた、買った。
さて…しばらくは新しいおもちゃが手に入った。

「いい暇つぶしになりそうだ」
李音は先程と同じような優しい笑みを一つ浮かべた。


呼び出された後、薫さんにこの屋敷の各部屋を案内され

「今日は疲れたでしょ?仕事は明日からでいいわよ」

と言ってもらえたので遠慮なく一人部屋に閉じこもる。
もう誰とも関わりあいたくない…
もう男なんかいらない…
そう思った時だった、ふと目の前の大きな鏡が目に入る。

「長ったらしい髪、おばけみてぇ」

そう李音様に言われたことを思い出す。
そして同時に

「俺、髪の長い子好きなんだよね」

という拓也の言葉も思い出す。
そうだ私、拓也が長い髪が好きっていうから伸ばして…
でも今はその長ったらしい髪がウザかった。
そこら辺に立ててあった普通のはさみを無造作に手に取ると

―ジョキッ…ジョキジョキ……!

肩まである長い黒髪を勢いよく切り始める。