「あっ、もしかして金持ってきてくれたの?」

ヘラヘラと軽く笑い、私の持っていた分厚い封筒を乱暴に受け取る。
そして何のためらいもなく勝手にパラパラとお金を数え始めた。
自分を売ってまで手に入れた大金。
だけど拓也からは、ありがとうの感謝の言葉の一つもなかった。
でも今はそんな細かいことを気にしている場合じゃない。
揚羽の考えていることはただ一つ。
ねぇ、誰なのその女の人?
ねぇ…拓也、まさか…
今一番疑いたくないことを考えてしまう。

「た…くや…その女の人…」

やっとの思いで絞り出した声で質問をする。
涙が出そうだった。
だけどそれを必死で我慢した。
お金を受け取った後の拓也はまるで私を汚いものを見るような目で睨みつけてきた。
そして冷たく私に向かって一言だけ言い放った。

「何って、彼女」

じゃあ…私は?
そう聞きたかったけどそれも怖くて聞けなかった。

「金、サンキューな、あっそれと」

次の拓也の言葉に私はすべてが崩れさる音がした。

「お前もう必要ねーから、それじゃ」

何で…どういうこと?

「私達の結婚資金ありがとう」

クスッと楽しそうに笑う女。
そしてそのまま後は何も告げず、揚羽の前から二人は立ち去った。
二人を追いかけようなどとは思わなかった。
きっと今二人を追いかけても自分はまた惨めな思いをするだけだ。

拓也は戻ってこない
お金も戻ってこない

「うそつき…うそつきぃ…」

ポタポタと涙が頬を伝って地面に降り立つ。
胸が苦しいよ、痛い。
すごく痛い。
息がちゃんとできない。
呼吸が荒くなる。
どうして?
ねぇ拓也、どうして私を裏切ったの?

私何か間違ってた?
私何か嫌なことした?
最初から私との関係は偽りだったの?

あの優しい言葉も
優しくしてくれたキスも
抱きしめてくれたのも全部、全部全部嘘?
拓也はあの女の人を選んだのね…

でも私は拓也のことが…
大好きだったのに…
なのに
貴方は私を裏切った。
その時私は人生の絶望を感じた。
そしてその時私は初めて分かった。
今の私には何もない
家族もいない。
最愛の人も失った。
そして自由も失ったのだとやっと気付いたのだった。